ヤマブドウ 鶴見俊輔(以下全て敬称略)のひととなりに興味を持ち、読みやすさと対談する相手から想定されるおもしろさから、「戦争が遺したもの」(副題 鶴見俊輔に戦後世代が聞く)を読んでいる。聞く人は上野千鶴子と小熊英二である。 鶴見の戦争体験、特に「従軍慰安婦」との関わりにおける上野の容赦のない追求はそこまで聞くかというほど徹底しているが、それだからこそ導き出せた答えもあり、鶴見の年齢を考えれば今聞かなければいつ聞けるという、上野の学者としての意気込み、いやすごみさえ感じた。 また、何でも答えると言った鶴見の言葉に嘘はなく、ひと言ひと言がとても腑に落ちるものだった。 念のために言っておくと、鶴見はジャワ島でのそう長くはない戦地での戦争体験のうち「従軍慰安婦」と交渉を持ったことは一度もなかったという。(それには理由があって。)彼は、慰安所と慰安婦の調達を命じられていたのだ。 と、ここで言いたいのは本の感想ではなく、出会ったおもしろい言葉に喚起されたことがらである。 鶴見は、おそろしく学校の成績が良く人間を成績ではかる自分の父のことを「一番病」という。日本の近代化はこういう「一番病」の人たちによってつくられた。時流に乗って簡単に転向するのもこういう人たちで、それを鶴見は「つくられた人」とよぶ。逆に学歴はないけれど自分で考える人たちがいて、そういう人たちのことを「つくる人」とよぶ。 それは、スピノザの「エチカ」に出てくる「つくられた自然」と「つくる自然」という区分になぞらえてのことである。 スピノザがどのような意味合いで語ったのか、正確にはわからないが、鶴見の 引用から推察されることはある。 カイナンサラサドウダンとカワラナデシコ さて、おもしろい言葉に出くわすと、植物や庭のことと結びつけて考えてしまう傾向のあるわたしはここでもそうした。それに「自然」であるし。 「つくられた自然」といってまず思い浮かぶのは里山に植えられた針葉樹林。 次に、いかに巧妙に作られていようと、短いスパンで植物の入れ換えがある観光庭園。 さらにいえば、憧れに生まれ憧れに終始している(ように感じられる)ガーデン。 これはかなりの反発が予想されるが、人間潔くならなければならないときはあると感じている。 自分にどれほどのことができるのかという疑問はおいておいても。 それにこれはあくまでも私が感じてしまうことなので、そう思わない方はそう思わないと言い切ればよし。 庭というのはまちがいなくつくる自然であるとおもう。そして、「つくる自然」をつくりたいとわたしはおもう。 黄実のヒヨドリジョウゴ バラ、ファンタン・ラトゥールに絡んで。 若かりし頃、わたしは芝居の現場にいた。 所属していた学生劇団は当時指折りの有名学生劇団で有名人も多数輩出していた。 いわゆる「アングラ」と呼ばれるものだった。当然表現ということと日々向き合わされていた。 他者と向き合い、自分に向き合い、自我の重さに圧しつぶされそうになっていた。 観念が空回りし自分の無力さに嫌気がさしていた。 もちろんそれらの経験はおもしろくもあったし、自分に必要なことだったとおもう。 芝居は二十代半ばまでやっていたが、やめたらすごくすっきりした。 以後、表現の現場からほとんど遠ざかっていた自分ではあるが・・・ 石の間にはびこるヒメツルソバ わずかな躊躇がないわけではないが、庭づくり、バラ栽培ということも含めて「庭づくり」ということに表現としての場を感じてきた、最近。 やっとそう思えたことに、やっと表現の場に着地できたかもしれないことに安堵した。 そして、庭は自分だけではなく植物自身がつくっていること、たくさんの他者とかかわりながらつくれること、第一、頭でどうのこうの考えていようと、いざ庭に出ればほとんど無心になって作業できることに本当にありがたみを感じている。 たくさんのコブシの葉が降るように落ちてきた ヒノミサキギク
by sakillus
| 2009-11-17 21:55
| 庭づくり
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Comments(4)
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だ
at 2009-11-18 17:31
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秋なのにとても華やかなお庭ですね。
紅葉も意識して植栽されてるのでしょうね。 石の上に葉っぱが落ちてきれいです。 観光庭園の話(私なりにですけど)わかります。 日本の庭文化って不思議ですよね。 昔の日本庭園と最近のガーデニング?に接点があまりなくて。 イギリスなんて百年前とそんなに変わりないと思うのですけど。 もうちょっと中間というか気候や土地に合わせたものがあっても いいのではないかなって思ってました。 sakiさんの表現する庭、私は好きです。 植物がいきいきしてて風土を感じます!
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だる
at 2009-11-18 17:38
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sakillus at 2009-11-18 22:47
だるさん、こんばんは。
撮ったその日が晴れていていい陽ざしが射していたのでとてもあかるく写っていますね。曇っているときは沈んでいるんですが。 秋に紅葉がきれいな庭というのもめざすところでして。 落葉樹はいいですね! 落ち葉というのも風情があって好きです。 >昔の日本庭園と最近のガーデニング?に接点があまりなくて そうですね・・・近年のガーデニングブームは・・・ 園芸を庭の景観として、また、それを庶民がたのしみとしてやることの契機になったのはよいとしても、イギリスがお手本になっちゃってますね。 異文化がやってくることは刺激になるのでよいとおもいますが、それをただ真似するというのはどうかとおもいます。園芸雑誌の罪は大きいと思いますよ。 知りあいのイギリス人はとてもものを大事にするんです。それは抜きんでているのかもしれませんが、イギリス人は今の平均的な日本人よりものを大切にするのかなぁとおもいます。イギリスには素敵なガーデンがたくさんありますが、入れ替えということで維持するのでしょうかね?冬だったら冬枯れでもいいと思っているのではないかなどと想像しています。行ったことないのでわかりませんが。
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sakillus at 2009-11-18 22:48
だるさん、つづきです。
共感してくださる方がいてくれるととてもうれしいです。! 私も植物のことをもっと知りたいとおもっています。ここに合う植物のことをもっと知りたいです。 うちの植物がいきいきしているのは、この場所のおかげが大きいです。ありがたいことです。
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